2023年度の桜蔭会国際交流奨励賞を受賞され、スイスに留学していらした釣希夢さんより、報告書が届きました。

留学報告書

お茶の水女子大学
人間文化創成科学研究科 理学専攻 博士後期課程 4年
釣 希夢(つり きむ)

研究タイトル
LHC-ATLAS実験における重いボソンから単一生成されたVLQ粒子の探索

研究の概要
ATLAS実験は、陽子同士の衝突から生じる素粒子を観測する実験であり、CERN(欧州原子核研究機構)の大型ハドロン衝突型加速器(LHC)に設置されている4つの主要実験の1つです。ATLAS検出器は毎秒10億回もの衝突を記録し、これらの膨大なデータを解析することにより、現代素粒子物理学の標準模型を超える新しい物理の発見を目指しています。

 私の研究目的は、VLQ粒子の存在を明らかにすることです。VLQ粒子は、標準模型を超える複合ヒッグス模型の一つで提案されている新しい素粒子の一つです。複合ヒッグス模型とは、ヒッグス粒子がより基本的な粒子からなる複合粒子と考える理論で、現在知られている3世代のクォーク粒子に加え、VLQ粒子が4世代目として存在することで、素粒子物理学の理論的一貫性を保つことができます。

留学期間中は、ATLAS検出器で取得された膨大なデータを精度よく解析するため、ATLASの解析グループのメンバーと意見交換を直接行い、解析フレームワークの開発に取り組んできました。また、VLQ粒子の理論論文の著者と現地で共同で研究を行い、理論モデルのシミュレーションへの実装を行いました。今回の留学で、論文執筆に欠かせないシミュレーションの枠組みを完成させ、ATLAS実験のデータを使用するための準備をすることができました。

標準模型を拡張した複合ヒッグス模型の概念図
ATLAS検出器
オペレーションシフト中
CERNの正面入り口付近
シリコン検出器の量産時の試験を行なっています